経営者でもできる!月次試算表・決算書を使った「経営分析」の基本

〜数字を“未来の意思決定”に変える方法〜

「毎月、試算表は見ている。でも、結局“利益が出た・出ていない”しか分からない。」

中小企業の経営者の方から、非常によく聞く言葉です。

しかし、本来の月次試算表や決算書は、単なる税務申告のための資料ではありません。会社の未来を予測し、経営判断を行うための「経営の地図」です。

重要なのは、難しい会計知識ではありません。経営者が見るべきポイントは、実は次の4つだけです。

  1. ちゃんと儲かっているか(収益性)
  2. 会社は潰れないか(安全性)
  3. 効率よく稼げているか(生産性)
  4. 将来に向けて成長しているか(成長性)

この記事では、月次試算表や決算書を使って、経営者自身でもできる「経営分析の基本」を、実務ベースでわかりやすく解説します。


1. 経営分析とは何か

経営分析とは、

「会社の数字を分析し、経営改善や将来の意思決定に活かすこと」です。

分析に使うのは、主に次の資料です。

  • 月次試算表
  • 損益計算書(P/L)
  • 貸借対照表(B/S)
  • キャッシュフロー
  • 売上推移
  • 原価データ

税理士が決算申告のためだけに使うものではなく、本来は経営者自身が意思決定に使うべきものです。


2. なぜ中小企業こそ経営分析が必要なのか

大企業は、失敗しても資金力があります。しかし、中小企業は違います。

  • 粗利率が少し下がる
  • 固定費が増える
  • 入金が遅れる
  • 人件費が膨らむ

これだけで、資金繰りは一気に悪化します。

だからこそ、中小企業経営では「数字の異変」に早く気づくことが重要です。

月次試算表を毎月分析することで、

  • 赤字の兆候
  • 利益率の悪化
  • 無駄な固定費
  • 資金不足

を早期発見できるようになります。


3. 経営分析で使う資料

① 月次試算表

最重要です。

決算書は「過去の結果」ですが、月次試算表は「現在地」が分かります。

経営判断は、決算後では遅いケースがほとんどです。最低でも毎月確認しましょう。

② 損益計算書(P/L)

会社が「どれだけ儲かったか」を見る資料です。

確認ポイント: 売上、粗利、営業利益、経常利益

③ 貸借対照表(B/S)

会社の「財産状況」と「借金状況」を見る資料です。

確認ポイント: 現預金、借入金、売掛金、在庫、自己資本


4. 経営分析の基本は「4つの視点」だけ

経営分析は難しく見えますが、実は次の4つだけ見れば十分です。

分析項目見るポイント
収益性ちゃんと利益が出ているか
安全性資金繰りは大丈夫か
生産性人や時間を有効活用できているか
成長性将来に向けて伸びているか

この4つを毎月確認するだけで、経営判断の精度は大きく変わります。


5. 収益性分析|ちゃんと利益が残っているか

① 粗利率を見る

最も重要です。

【計算式】

粗利 ÷ 売上高 × 100 = 粗利率(%)

■粗利とは何か

粗利とは、「売上 − 原価」です。

(例:売上1,000万円 - 外注費・材料費700万円 = 粗利300万円 ➔ 粗利率30%

■なぜ粗利率が重要なのか

中小企業では、「売上はあるのに、お金が残らない」ケースが非常に多いです。原因の多くは、値引き、原価上昇、外注依存、見積ミスです。

売上よりも、「粗利率」が重要です。

② 営業利益を見る

営業利益とは、「本業で残った利益」です。

【計算式】

粗利 − 販売費及び一般管理費 = 営業利益

営業利益が赤字なら、本業そのものに問題があります。


6. 安全性分析|会社は潰れないか

黒字でも、資金が尽きれば会社は倒産します。だからこそ「安全性分析」が重要です。

① 流動比率(短期的な支払い能力)

【計算式】

流動資産 ÷ 流動負債 × 100 = 流動比率(%)

  • 100%未満 ➔ 危険
  • 130%以上 ➔ 一般的
  • 200%以上 ➔ 安全性高い

② 自己資本比率(銀行が非常に重視する指標)

【計算式】

自己資本 ÷ 総資本 × 100 = 自己資本比率(%)

  • 10%未満 ➔ 危険
  • 20〜30% ➔ 一般的
  • 40%以上 ➔ 優良

③ 固定費を把握する

毎月必ず出ていく支出(家賃、人件費、リース料、保険、借入返済など)です。固定費が重すぎる会社は、売上減少に耐えられません。

④ 損益分岐点を知る

「最低いくら売れば赤字にならないか」を把握します。

【計算式】

固定費 ÷ 粗利率 = 損益分岐点売上高

(例:固定費200万円、粗利率40%なら、200 ÷ 0.4 = 500万円。毎月500万円以上売らなければ赤字です)


7. 生産性分析|人と時間を有効活用できているか

労働生産性を見る

「社員一人当たり、どれだけ利益を生み出したか」を見る指標です。

【計算式】

粗利 ÷ 従業員数 = 労働生産性

■生産性が低下する典型例

やり直し、待ち時間、指示不足、属人化、社長待ちなど。

忙しい会社ほど、生産性が低いケースがあります。「忙しい=儲かっている」ではありません。


8. 成長性分析|会社は前進しているか

売上増加率を見る

【計算式】

(当期売上高 − 前期売上高) ÷ 前期売上高 × 100 = 売上増加率(%)

毎年、売上・粗利・営業利益が増えているか確認しましょう。

「増収減益」に注意

売上は増えているのに利益が減っている会社があります。これは、値引き、原価高騰、人件費増加などが原因です。「売上」だけ見ていると非常に危険です。


9. 月次試算表を見るときの実践ポイント

  • 毎月、前年同月比較をする単月だけ見ても意味がありません。「前年同月」「前月」「予算」と比較しましょう。
  • 「異常値」を探す外注費だけ急増、在庫だけ増加など、異常値には必ず原因があります。
  • 数字を“行動”に変える分析して終わりでは意味がありません。
分析結果行動
粗利率低下値上げ・原価見直し
固定費増加コスト削減
売掛金増加回収強化
労働生産性低下業務改善

10. 経営分析で絶対にやってはいけないこと

  1. 決算だけ見る決算は過去です。経営はリアルタイムで動いています。月次で管理しましょう。
  2. 売上だけ見る利益が残らなければ意味がありません。「売上至上主義」は危険です。
  3. 数字を放置する試算表を“受け取るだけ”にせず、「なぜ増えたか・減ったか」「次にどうするか」を考えることが重要です。

まとめ|数字を「過去」ではなく「未来」に使う

経営分析とは、単なる会計作業ではありません。会社の未来を守るための「経営判断ツール」です。

最低限、次の4つを毎月確認しましょう。

  1. 収益性(利益)
  2. 安全性(資金繰り)
  3. 生産性(効率)
  4. 成長性(未来)

難しい会計知識は不要です。重要なのは、「数字から会社の異変に気づけること」です。

月次試算表や決算書を、“税務署提出用”ではなく、“未来の経営判断ツール”として活用していきましょう。

この記事を書いた人

中村 慎吾(なかむら しんご)
中村慎吾税理士事務所 代表税理士

大学卒業後、事業会社勤務を経て学習塾を新規開校し、1年で生徒数ゼロから50名規模へ成長。コロナ禍で塾業界が低迷する中、「情熱がある経営者が、数字が見えないという理由だけで資金繰りに追い込まれていく状況を打開したい」という熱い想いを持つ。

独立後は、記帳・申告にとどまらず、会計を“未来の意思決定ツール”として活用する支援を提供。開業後の1年間で100件超の決算・申告に対応し、製造・建設・医療からIT・広告業まで幅広い業種の法人顧問を担当している。
また、京都府の財務分析セミナーや簿記の講師も務め、通訳案内士の語学力を活かしてクロスボーダー案件にも対応。外国人起業家の法人顧問を務め、プラットフォーム業・ソフトウェア開発業・不動産投資業等の税務代理も務める。
専門知識と起業経験に基づく現場感覚を強みに、経営者の意思決定を支えるパートナーとして活動している。

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