個人事業主・フリーランスの方の中には、持ち家である自宅の一部を事務所として利用しているケースが多くあります。
その場合、自宅の建物部分について「事業用部分」を設定し、その割合に応じて減価償却費を必要経費に計上することが可能です。
一方で、住宅ローン控除(住宅ローン減税)を適用している場合は、事業用割合が大きくなることで住宅ローン控除が制限される、あるいは適用できなくなる可能性があります。
また、将来自宅を売却する際の「居住用財産の3,000万円控除」にも影響するため、単純に「事業割合を大きくすれば節税になる」というわけではありません。
今回は、
- 住宅ローン控除
- 建物の減価償却
- 自宅兼事務所の事業割合
- 将来の売却時の税金
について、税法上の取扱いを踏まえて分かりやすく解説します。
自宅兼事務所で減価償却費を経費にできる仕組み
個人事業主やフリーランスの方が、自宅の一部を事務所として利用している場合、その事業利用部分に対応する費用を必要経費として計上できます。
代表的なものとしては、
- 建物の減価償却費
- 固定資産税
- 火災保険
- 電気代
- 通信費
などがあります。
特に建物については、建物本体の取得価額を耐用年数に応じて毎年費用化する「減価償却」が可能です。
例えば、
- 自宅面積100㎡
- 事務所利用20㎡
であれば、事業割合は20%となり、建物の減価償却費の20%を必要経費として計上できます。
住宅ローン控除とは?
住宅ローン控除(住宅ローン減税)は、住宅ローンを利用してマイホームを取得した場合に、一定期間、所得税・住民税の控除を受けられる制度です。
現在は、一定の要件を満たす場合、
- 年末住宅ローン残高
× - 控除率0.7%
を基準として控除額が計算されます。
ただし、以下のような要件があります。
- 自ら居住していること
- 床面積要件を満たすこと
- 所得制限を満たすこと
- 居住用割合が一定以上であること
この「居住用割合」が、自宅兼事務所の場合に重要になります。
事業割合が住宅ローン控除に与える影響
住宅ローン控除は、税法上、
「床面積の2分の1以上が自己の居住用であること」
が要件となっています。
つまり、
- 居住用部分50%超 → 住宅ローン控除適用可能
- 事業用部分50%超 → 住宅ローン控除適用不可
となります。
ここで注意したいのは、
「事業利用している=ダメ」
ではなく、
「割合」
が重要という点です。
「10%」「50%」が重要になる理由
① 事業割合10%以下
事業割合が10%以下の場合は、税法上、
「ほぼ全体が居住用」
として扱うことが可能です。
つまり、
- 住宅ローン控除を100%適用可能
- 居住用財産3,000万円控除も100%適用可能
となります。
これは租税特別措置法関係通達(措通41-29、措通31の3-8)による特例です。
② 事業割合10%超〜50%以下
この場合は、
「居住用割合に応じて」
住宅ローン控除を按分計算します。
例えば、
- 居住用70%
- 事業用30%
であれば、住宅ローン控除は70%のみ適用可能となります。
③ 事業割合50%超
事業用割合が50%を超える場合は、
住宅ローン控除そのものが適用できなくなります。
このため、減価償却費を大きく経費化した結果、住宅ローン控除を失うケースもあります。
住宅ローン控除の計算例
例えば以下のケースを考えます。
- 住宅ローン残高:2,000万円
- 居住用割合:70%
- 控除率:0.7%
まず、住宅ローン残高を居住用割合で按分します。
20,000,000 × 70% = 14,000,000
次に、控除率を掛けます。
14,000,000 × 0.7% = 98,000
この場合、住宅ローン控除額は98,000円となります。
将来の「3,000万円控除」との関係
自宅を将来売却する場合には、
「居住用財産の3,000万円特別控除」
が問題になります。
これは、自宅売却時の譲渡所得から最大3,000万円を控除できる非常に強力な制度です。
しかし、自宅兼事務所の場合、
「居住用部分のみ」
が特例対象となります。
具体例
例えば、
- 売却益:1,000万円
- 事業割合:30%
の場合、
10,000,000 × 30% = 3,000,000
300万円部分については、3,000万円控除の対象外となる可能性があります。
つまり、
- 事業割合が高い
↓ - 将来の売却時課税が増える
という点にも注意が必要です。
住宅ローン控除と減価償却費はどちらを優先すべきか
これは、
- ローン残高
- 所得水準
- 建物価格
- 将来売却予定
- 事業利益
によって変わります。
ただ、一般的には、
住宅ローン残高が大きい時期
→ 住宅ローン控除のメリットが大きい
ローン残高が減少した後
→ 減価償却費の経費化メリットが大きくなる
ケースが多いです。
税務調査で問題になりやすいポイント
税務上、問題になりやすいのは、
「本当にその割合で事業利用しているのか」
という点です。
例えば、
- リビングを無理やり50%事業用としている
- 実態より過大な割合で経費化している
- 図面や写真がない
などの場合、否認リスクがあります。
準備しておきたい資料
- 間取り図
- 写真
- デスク配置図
- 面積計算資料
- 光熱費按分根拠
などは保管しておくのがおすすめです。
自宅兼事務所のおすすめ事業割合
実務上は、
① 10%以下
最も安全性が高い
- 住宅ローン控除100%
- 3,000万円控除100%
を維持可能
② 20〜30%程度
最もバランスが良いケースが多い
- 一定の減価償却費を経費化
- 住宅ローン控除も維持
③ 50%近辺
税務リスクが高くなりやすい
- 住宅ローン控除否認リスク
- 実態説明が必要
となるケースが多いです。
まとめ
自宅兼事務所の場合、
- 建物の減価償却費を経費化できる
- 住宅ローン控除も利用できる
という大きなメリットがあります。
ただし、
- 事業割合が50%超になると住宅ローン控除不可
- 10%超だと住宅ローン控除が按分
- 将来の3,000万円控除にも影響
するため、単純に「事業割合を大きくするほど得」とは限りません。
特にフリーランス・個人事業主の方は、
- 現在の節税
- 将来の売却時課税
- 税務調査リスク
まで含めて、最適な事業割合を検討することが重要です。
実際には、
- 住宅ローン残高
- 所得金額
- 建物価格
- 将来売却予定
によって最適解は変わりますので、具体的なシミュレーションを行いながら判断されることをおすすめします。
自宅兼事務所の事業割合や住宅ローン控除の取扱いに不安がある方は、一度当事務所までご相談ください。
この記事を書いた人

中村 慎吾(なかむら しんご)
中村慎吾税理士事務所 代表税理士
大学卒業後、事業会社勤務を経て学習塾を新規開校し、1年で生徒数ゼロから50名規模へ成長。コロナ禍で塾業界が低迷する中、「情熱がある経営者が、数字が見えないという理由だけで資金繰りに追い込まれていく状況を打開したい」という熱い想いを持つ。
独立後は、記帳・申告にとどまらず、会計を“未来の意思決定ツール”として活用する支援を提供。開業後の1年間で100件超の決算・申告に対応し、製造・建設・医療からIT・広告業まで幅広い業種の法人顧問を担当している。
また、京都府の財務分析セミナーや簿記の講師も務め、通訳案内士の語学力を活かしてクロスボーダー案件にも対応。外国人起業家の法人顧問を務め、プラットフォーム業・ソフトウェア開発業・不動産投資業等の税務代理も務める。
専門知識と起業経験に基づく現場感覚を強みに、経営者の意思決定を支えるパートナーとして活動している。


