「役員報酬は毎月同額なら大丈夫」
—そう思っていませんか?
実は、金額が同じであっても、「会計処理」や「支給の実態」が伴っていなければ、税務調査で否認されるリスクがあります。
今回は、どんぶり勘定が原因で定期同額給与と認められなかった裁決事例をもとに、実務上の注意点を解説します。
よくあるご相談内容
当社は同族経営で、特に株主総会などの形式的な手続きはしていません。
役員報酬も、年度末にまとめて1年分を「未払金」として一括計上し、実務上は毎月支払っているものとして処理しています。
これは税務上の「定期同額給与」として認められるでしょうか?
【結論】
非常に危険です。
否認される可能性が高いと言わざるを得ません。
役員報酬を定めた根拠(議事録等)がなく、毎月の給与計算や実際の支給(または適切な未払計上)も行われていない場合、税務上は「支給すべき事実そのものがない」と判断される恐れがあります。
「定期同額給与」の基本ルールをおさらい
法人税法において、役員報酬を損金(経費)にするための「定期同額給与」には、以下の条件が求められます。
- 支給時期: 1か月以下の一定期間ごと(通常は毎月)であること。
- 支給額: その会計期間の各支給時期における支給額が同額であること。
ここで重要なのは、「あらかじめ定められた支給基準に基づき、規則的に反復して支給されているか」という点です。
実際にあった否認事例(平成29年8月4日裁決)
ある同族会社で、代表者の両親である取締役に支払った役員報酬が争点となりました。
- 状況: 議事録がなく、帳簿(総勘定元帳や仕訳帳)も作成されていない。
- 処理: 役員報酬を年度末に一括して計算し、試算表に記載。
- 納税者の主張: 「資金繰りの都合上、代表者との間で貸し借りを繰り返していただけで、実質的には毎月支払っていた。期末の一括記載は事務負担軽減のためだ。」
結果:国税不服審判所の判断 「支払った事実も、未払金として確定していた事実も確認できない」として、定期同額給与には該当しないと一蹴されました。
実務で守るべき「3つの鉄則」
この事例を「反面教師」として、以下の体制を整えておくことが不可欠です。
- エビデンスの整備(議事録)
株主総会や取締役会で報酬額を決定し、その議事録を必ず作成・保管してください。 - 毎月の給与計算と仕訳
「期末にまとめて計上」はNGです。キャッシュアウト(振込)が困難な場合でも、毎月仕訳を起こし、未払金として管理する必要があります。 - 支給実態の可視化
銀行振込などを利用し、通帳に記録を残すのが最も安全です。現金手渡しや相殺処理を行う場合は、より厳格な領収書管理や帳簿付けが求められます。
まとめ
「身内だけの会社だから」という甘えは、税務調査において大きな代償(追徴課税)となって返ってくることがあります。
会計処理は単なる事務作業ではなく、「経費として認めてもらうための証明活動」です。
自社の処理に不安がある方は、一度当事務所までご相談ください。
この記事を書いた人

中村 慎吾(なかむら しんご)
中村慎吾税理士事務所 代表税理士
大学卒業後、事業会社勤務を経て学習塾を新規開校し、1年で生徒数ゼロから50名規模へ成長。コロナ禍で塾業界が低迷する中、「情熱がある経営者が、数字が見えないという理由だけで資金繰りに追い込まれていく状況を打開したい」という熱い想いを持つ。
独立後は、記帳・申告にとどまらず、会計を“未来の意思決定ツール”として活用する支援を提供。開業後の1年間で100件超の決算・申告に対応し、製造・建設・医療からIT・広告業まで幅広い業種の法人顧問を担当している。
また、京都府の財務分析セミナーや簿記の講師も務め、通訳案内士の語学力を活かしてクロスボーダー案件にも対応。外国人起業家の法人顧問を務め、プラットフォーム業・ソフトウェア開発業・不動産投資業等の税務代理も務める。
専門知識と起業経験に基づく現場感覚を強みに、経営者の意思決定を支えるパートナーとして活動している。


