銀行が評価する経営指標と決算書の作り方
中小企業の経営において、資金繰りや銀行融資は避けられないテーマです。
しかし多くの場合、「損益計算書の利益」だけに注目し、貸借対照表の改善が後回しになりがちです。
銀行は、会社がどれだけ「返済できる力(倒れない力)」を持っているかを、貸借対照表から見ます。
この記事では、経営者が最低限理解すべき財務指標と、その改善ポイントを整理します。
銀行が見るポイントは「利益」ではなく「体力」
同じ売上・利益でも、貸借対照表が強い会社は融資条件が良くなります。
銀行評価の中心は次の3点です。
- 短期の支払能力 … 今、支払に困らないか
- 資本の厚み … 苦しい時でも倒れないか
- 返済する余力 … 利息・元金を返す余裕があるか
これを分析するための指標が以下です。
主要な財務指標とその計算方法
| 指標 | 計算式 | 目安 | 意味 |
| 流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 ×100 | 120%以上(理想:200%) | 1年以内の支払に耐えられるか |
| 当座比率 | (流動資産 − 在庫) ÷ 流動負債 ×100 | 100%以上 | 在庫を除いても支払できるか |
| 固定比率 | 固定資産 ÷ 自己資本 ×100 | 100%以下が望ましい | 固定資産を自力で賄えているか |
| 自己資本比率 | 自己資本 ÷ 総資産 ×100 | 30%以上(理想:50%以上) | 財務の安定性(倒れにくさ) |
| インタレスト カバレッジレシオ | (営業利益+減価償却費) ÷ 支払利息 | 4倍以上 | 利息を払う余裕があるか |
| 必要利益 | 借入返済額+設備投資+社長生活費+内部留保 | 会社ごとに異なる | 事業継続に必要な最低利益 |
経営判断に使える追加の重要指標(銀行も見る)
| 指標 | 計算式 | 目安 | 意味 |
| EBITDA | 営業利益+減価償却費 | 高いほど良い | 返済に回せるキャッシュ創出力 |
| ROA(総資産利益率) | 経常利益 ÷ 総資産 ×100 | 5%以上 | 資産を活かして稼ぐ力 |
| ROE(自己資本利益率) | 当期純利益 ÷ 自己資本 ×100 | 10%以下が望ましい | 資本を効率よく増やす力 |
とくに EBITDA は、銀行が「返済できるか」を判断する際の実務指標です。
書籍の理想値と現実的な目標の違い
| 指標 | 書籍における理想像 | 中小企業における現実目標 |
| 流動比率 | 200%以上 | まずは120%を超えることが最優先 |
| 自己資本比率 | 50% | 30%を超えると融資評価が一段階上がる |
理想値は “最終的な到達点” であり、中小企業が短期間に追う指標ではありません。
重要なのは、改善のステップが明確であることです。
決算書を強くするための改善ポイント
| 改善項目 | 対応内容 | 効果 |
| 役員貸付金の解消 | 社長と会社の財布を分ける | 信用力が上がる |
| 不良在庫・滞留売掛金の整理 | 実態に合わせて貸借対照表を正常化 | 流動比率改善・信頼性向上 |
| 不要固定資産の除却・売却 | 利用していない資産を処分 | 固定比率改善 |
| 利益構造の見直し | 粗利率改善・固定費圧縮・単価見直し | 内部留保が増え、自己資本比率が上がる |
決算書は「結果」ではなく、設計して作るものです。
まとめ
- 銀行は、損益より 貸借対照表の強さを見る
- 流動比率120%、自己資本比率30%を超えると、融資条件が良くなる
- 書籍の理想値(流動比率200%、自己資本50%)は「最終到達点」
- 決算書は「作り方」で変わる
- 経営者の武器は 数字の理解=貸借対照表のコントロール能力
貸借対照表を強くすることは、倒れない会社をつくることです。


