毎年の税制改正は情報量が多く、ニュースやSNSでは断片的に語られがちです。
しかし、経営に影響する改正は多くありません。押さえるべきは、次の3点です。
- 所得税:役員報酬・年末調整に関係
- 法人税:利益計画・投資判断に関係
- 消費税:インボイス・販売オペレーションに関係
「どこが変わった」ではなく、
“自社の意思決定にどう影響するか” に焦点を当てて整理します。
所得税 — 給与・役員報酬・退職金に直結
基礎控除が実質的に拡充
令和7年分より、基礎控除が以下のように変わります。
| 合計所得金額 | 令和6年まで | 令和7年から |
| 132万円以下 | 48万円 | 95万円 |
| 132万超〜655万円以下 | 48万円 | 63万円〜88万円 (所得帯に応じ逓減) |
| 655万超〜2,350万円以下 | 48万円 | 58万円 |
| 2,350万超〜2,500万円 | 48万円→0円の逓減 | 同様に逓減 |
低〜中所得層に大きく増額され、高所得層では据え置き〜逓減という方向です。
給与所得控除の最低額も 55万円 → 65万円 に引き上げ
給与を受け取る人は、収入から自動的に控除が引かれますが、この控除の下限が10万円増えました。
給与所得者の可処分所得が増えるため、採用時の「手取り感」の改善につながります。
退職金制度は「受取タイミング」の重要性が増す
退職所得について、iDeCoや企業型DCの一時金と会社の退職金を近い時期に受け取る場合の調整期間が、5年 → 10年に延長されました。
つまり、
- 退職金と
- iDeCo一時金
を「同じタイミングで受け取る」と、 これまで以上に控除が重複しにくくなる=税負担が増える可能性があります。
退職金は「いくら受け取るか」ではなく「いつ受け取るか」で手取りが変わる時代に入りました。
今後の実務
- 就業規則・退職金規程、見直しが必要
- 役員退職金は「受給計画」を前提とした設計へ
- iDeCo加入推奨の会社は、説明資料を更新
法人税 — 利益計画・投資判断に直結する改正
中小法人の軽減税率(15%)は継続
中小企業は、年800万円以下の所得に対して 法人税15% の軽減税率が継続されます(大企業は19%)。
ただし、令和8年度から「防衛特別法人税(4%付加税)」が導入予定です。
例:法人税額100万円 → 104万円になるイメージ。
中長期的に、実効税率は上がる方向です。
利益計画と役員報酬の設計は再調整するタイミングに入ります。
設備投資・IT投資は「即時償却」または「税額控除」が継続
中小企業経営強化税制により、対象設備・ソフトウェアへの投資は
- 即時償却(その年に全額経費)
- 7〜10%前後の税額控除
が選択できるケースがあります。
特に対象になりやすい投資:
| 投資の種類 | 具体例 |
| デジタル化 | クラウド会計、kintone、在庫管理アプリ |
| 生産性向上 | CNC機械、加工設備 |
| 社内教育 | OJT体系化、研修カリキュラム導入 |
導入前に税理士に確認することが必須です。
導入後に言っても適用できないケースが非常に多いです。
賃上げ促進税制は「計画を立てた会社だけが有利」
給与支給総額が前年より増加した場合、法人税が減額されます。
- 給与台帳
- 雇用管理
- 賃金設計
が整理されている会社ほど、控除額を最大化できます。
「上げられないから対象外」ではなく“どう上げれば負担を抑えられるか” が検討ポイントです。
消費税 — インボイスの“運用力”と、免税販売方式の大変更
インボイスは「書式チェック」より「仕組み化」が重要
令和7年に入り、国税庁のインボイスQ&Aが更新されています。
新しい論点:
- 総額表示と税率区分の整合性
- 外注・個人事業主との取引調整
- 電子帳簿保存法との連動
ポイントは、人ではなく、フローで管理すること。
経理担当者の能力に依存する運用は限界に来ています。
2026年11月から「免税販売(Tax-Free)」は“リファンド方式”へ
現行 免税店で「税抜」販売
改正後 税込販売 → 出国時に返金
対象:百貨店・家電・ドラッグストア・観光地物販など
必要になるもの:
| 必要な対応 | 具体例 |
| POS変更 | 税抜 → 税込処理に変更 |
| 変更オペレーション設計 | 店舗 or 外部リファンドサービスを利 |
| 在庫管理連動 | 免税・課税在庫区分が変わる |
インバウンド比率が高い小売業は、1年〜1年半の準備期間が必要です。
経営者が今すぐやるべきこと
| 優先順位 | 取り組み | 目的 |
| 1 | 役員報酬と給与体系を再検討 | 所得税・社保・法人税の最適化 |
| 2 | 退職金とiDeCo/DCの「受取時期」を設計 | 手取りを最大化 |
| 3 | 投資計画を税制とセットで立てる | 即時償却・税額控除を取り逃さない |
| 4 | インボイス運用を「ルール化」する | 属人化を解消し、ミスを防ぐ |


